「つ、つな?」
「ん、何?どうしたの山本。俺なんか変?」
「変・・・・っつーか、いやなんつーか、な?どうした?」
山本武は親友であり、上司でもある沢田綱吉に声を掛けた。
グラスに注いだペリエを受け取る彼は、普段通りである。まったく常と変ったところのない、文句のつけようのない隙のない微笑。
柔らかい弧を描いた口元、差し込む光に金に透ける瞳は穏やかで、彼の甘い顔立ちを最上級に見せるマスク。
ともすれば儚げに、けれどその微笑は優しげで慈悲的なものではない。
煌めく琥珀色の瞳は鋭い輝きさえ載せてはいないが、深くその底が伺えない。
完璧でありながら何処か曖昧で、俗な言葉で言えば胡散臭い微笑み。
対ビジネス用のアルカイックスマイルは、変どころか完璧である。
文句の付けどころなど何処にもない。
無い、のだコレが毎日毎日事務的にさばいているルーティンワーク。
会食だの会議だのに挑む前ならば何の問題も無いのである。
「お前、なんかあった?」
「いや別に何もないよ?」
ニコッと笑う。
いやいや、何もない事はないだろう?親友。
言いたい言葉はあるのだ。しかしかれはグッとこらえて出かけた言葉と空笑いを飲み込んだ。
先日宝飾店へ出かけてから、何かおかしい。
おかしいのは分かるのだが、如何せん相手が悪い。学生時代ならいざ知らず、ここ数年ボスの立場に立ってからというもの、彼の成長は目覚ましい。
あのスーパーでグレイトな彼の家庭教師が汗水流して、それはそれはもう筆舌に尽くしがたい労力を割いて、育ててきた芽が漸く出てきたと言えなくもないが、教育されてきた本人は必至だったのだ。
この世の地獄を見てきたという、彼にはもう怖いものなどない。
他人の前で自分を繕う方法は、最近長けてきたため本当に知られたくない事は、ずっと共にきた山本や獄寺にも気取られるような事はないのだ。
それが、今どうにもおかしな事になっている。
――――これは、もう本当に最上級に動揺している
山本武はフムと考えるのだ。
最近、心動くような事も無かったからこれはこれで良いんじゃないのかと。
ボスになった以後、綱吉は努めて感情を表に出さないようにしている。それは勿論、彼にとって、いや彼がその立場に座る為には必要な事なのだが、中学から共に居る身としてはやはり痛々しくもあった。
随分と多感で感じやすい少年だった彼が、こんな風に今社会の裏に居るのかと思うと、一層。
勿論、それは彼に言わせれば自分にも当て嵌まる事なのかもしれないけれど、あの死神の異名をとるヒットマンが、自分を生まれながらの殺し屋だと評した事がおぼろげに見えている今となっては、自分は来るべくしてここに来たのだと思う。
それに、綱吉と絶対的に違う点が一つ。
友人よりも、親友よりも、もう一つ二つ深いところに入れる人間を、自分は見つけている事。
弱音は吐いても、自分たちには絶対に脆い部分は曝さない親友の、情緒面のケアはどうしたものかと考えても詮無い事を考える日々である。
本人の問題だ、他人が口を出す問題ではない。
そんな事を考えていた、いや考える余裕が出てきた。
イタリアに渡って5年。
綱吉は、5年前の誕生日、この世に生を受けて18を数えるその日にドン・ボンゴレとして就任した。
そう、5年目だ。
もう、目の前の事だけを考えるだけではいけない歳になってしまった。
ああ、そうか。だからなのか・・・
唐突に浮かんだ答えであった。
潮時というのか?
年貢の納め時というのか?
顔を真っ青にしながらぶつぶつと考え込んでいる綱吉を他所に、山本武はこの場にそぐわない妙な笑みつくった。
―――コンコンコンッ
「十代目、そろそろみなさんお集まりです」
「あ・・・ああ。うんありがとう、無理せずに休んでていいよ?」
「・・・・いえ、これくらいは」
ノックの後に顔を覗かせた獄寺隼人は、いつもの精彩をやや欠いている。
顔の傷や痣は何とか隠してはいるものの、脇腹や胸を押さえて時折顔を顰める仕草を綱吉が見咎めないはずが無かった。
かれこれ2週間程前に1週間の有給を要求してきた彼に、珍しい事とは思いながら二つ返事で許可したものの、帰ってきた彼は満身創痍。
当然、飛びあがらんまでに驚いて問い詰めたが視線を床に落とし不甲斐ないと泣くばかり。
曰く「それでも言質はとって参りました、何かあったら即刻離縁」
曰く「お心を疑ったのではないのです。情報の出元が信用置けなかっただけなんです!!」
曰く「十代目がお決めになった事にもう俺は否とは言いません」
曰く「こんな不甲斐ない俺ですが、晴れの日にはきっときっと三国一の式を取り仕切って」
云々…
この事態に、きっと、いや絶対に、修羅のオーラを纏った爽やかかつ、黒い笑顔を振りまきながら、愛刀に手を掛けるだろうと思っていた山本武に目をやると、妙に暖かい笑顔で傷を労わり励ます。
なんだ?
このほのぼのとした絵は。
「え、あれ?俺おじゃま?」
「お。ツナ、野暮なことは言いっこ無しだぜ」
「そだね」
あ、そう。OKOK
「痴話喧嘩ね」
「・・・・ちわ・・・十代目、なんてご立派になられて、もうそんなお付き合いを―――!!?」
「あー・・・いや、まあ、ほらな、落ち着け、な?」
「あのさ、やまもと?」
「まあまあ、ツナ。そっとしといてやってくれよ」
ふうと、息を吐きながら零した言葉を拾ってまた、この反応。
おかしく無い筈が無い、ないがあえて突っ込まずにきた今日この日。
これほどドメスティックな事をするような関係ではないはずなのだけれど、と未だ傷の癒えない獄寺を横目に山本武を見やる綱吉の目は若干胡乱だが、これと言って何かを意見するつもりはない。
他人のあれやこれやに首を突っ込む趣味は、生憎と持ち合わせてはいなかった。
「それじゃ、俺行ってくるよ。獄寺君はもう休んでてね、今日は硬い場でもないし、後でゆっくり顔出して?傷に響くよ」
「いえ――」
「山本頼むね」
何やらまだ声が聞こえたが、山本が「おう」と片手を上げて返答を返すか返さないか、上着を片手に綱吉は部屋を後にした。
まだ何やら言い合う声は聞こえるが、良いだろう。
そっとドアを閉めると、赤いカーペットが引かれた廊下を歩きだす。
手に持った上着を羽織り、タイを直す。
今日は、気が張らない身内だけのガーデンパーティーなので何時もよりもくだけたものを。
薄いラベンダーグレーの光沢をもったグレーの少しだけいつもよりも上着の丈の長いスーツ、設えて贈ってくれたのは先代だ。
時刻は昼に差し掛かろうとしているが、日差しは柔らかく窓の外からは甘い香りが漂ってくる。
今年も、一年間丁寧に手を掛けて大切に育てられた薔薇が見事な花を付けているのだ。庭だけではなく、邸の中にあっても時折薔薇が香れば、知らずに頬が緩んだ。
先代から譲られた邸はセーフハウスの一つというよりも、何人かの使用人を常駐させて、英国貴族のマナーハウスの様な瀟洒な造りをしている。
邸も使用人も、9代目が愛してやまない薔薇園もそのまま譲り受けて、今は時折訪れる別荘の中では格別に気に入っている一つだった。
そこで、毎年当日からはすこし日付をずらして、自分と自分の家庭教師であるリボーンの誕生パーティーをささやかに開くのが恒例だ。
本部の迎賓館でのパーティーは先日終わっているが、表面上はともかく当然のように水面下ではビジネスの駆け引きもあって、疲れるというのが本音だった。随分慣れはしたけれど、まだファミリーの前に立つのは緊張する。
その点、今日などは友人たちを呼んで気楽に飲んで食べて、楽しめる。
今は隠居している先代に、守護者である彼らはもちろん、こちらの側ではない友人たちも時間を融通して来てくれていた。大学の間は何とでもなったらしいが、社会に出るとこの時期に休みを取るのはなかなか難しいと、欠席すると聞いている黒川や笹川京子などからはバースデイカードが届いている。
純粋に嬉しいと思う。
あまり大っぴらに集まるのはまずいのだが、他ファミリーの人間やヴァリアーの面々も顔を出してくれる。
酒を目当てに、羽目をはずしに来るだけですと獄寺などは毎年キリキリしているが、それでいい。
毎年一回、皆が自分たちの為に集まってくれてそして楽しい時間を過ごしてくれるならそれだけで十分だった。
――――そうだ。今日は楽しい日の筈だ だからどうか……
ジーザス!!
キリスト教徒どころか、仏教徒ですら無いのだが自分の中の神様に祈ってしまう。
今日が平穏無事に済みますように!!!
俺の評価・・・は、もともとそんなに高く無いだろうから良いけど変な噂(全ボンゴレに広がるよりも、身内に広がる方がずっと始末が悪い)が立ったり、可愛い妹分に嫌われないなら、もう人生どうでもいいから!!!
ナンパした男が、彼女の彼氏・・・・。
何回、何千何万回と頭の中で反芻した言葉で発狂しそうである。
どうにか笑い話にしてしまいたい。闇に葬る事も考えたが、あの綺麗なお兄さんに弱みを握られるのは非常に怖い気がした。
何よりも、そんな事を慮れる人間ではないような気がした――あれ?
お嬢さん、彼の何処がいいの?
それは逃避思考だとか、自分にも帰ってくる話じゃないかという事に綱吉は気がつかない。
そもそも、客観的に見ても笑い話のネタであるのだが、結構本気、と書いてマジに口説いた身としては後ろめたさが相まって自分で笑えない。
「そんな人だとは思わなかった!大っきらい!!」などと泣きながら罵られた日には、もう生きていけない気がする。
クロームや、あと穏やかな先代と並んで彼女は綱吉の聖域であった。
「ツナ!」
「あ・・・・。今日は来てくれてありがとう」
胃を抑えながら歩く庭、今日は天気もよいでのガーデンパーティーで。
祈りをささげていると呼びとめられた先に、今まさに心の中で綱吉を罵っている少女が満面の笑みで自分の誕生日を祝ってくれている。
一瞬顔が引きつってしまったのが、何とも申し訳なくもいたたまれない。
これが祈った神の、思し召しか?
本部でのパーティーでもあっているが、自分が忙しかったせいも、人目もあってあたりさわりのない会話しかしていないから、こうやって会うのは久しぶりの気がした。
「お誕生日おめでとうございます」
にこりと笑うと、お招きありがとうございますとふわりと揺れる若草色のドレスの裾を摘まんで淑女の礼を。
女性たちはパーティーの花だ。
遠いところわざわざありがとうという綱吉に、今年は日本の黒川が返した言葉だったか。
イタリアに呼んでくれて、普段着ないようなドレスでパーティーに出席なんて日本じゃあんまり無いんだから、あんたのお祝いの筈なのに私たち喜ばしてどうするの?と。
そう言って笑っていた事を思い出す。
最近会うのは着飾る事が仕事だと言う婦人方が大半で、それが楽しいと言ってくれる女の子たちは少しずつ大人になって行く。
小さな頃から知っているユニの成長を見るたびに、目を細めるけれど、いつまでも無邪気なままでいてほしいと思うのはエゴかもしれない。
「なあに?」
「・・・・いや、大きくなったねって。父親の心境?」
お兄様の間違いじゃないの?とコロコロ笑う声の向こう側。
後ろに控えているγが微妙な顔をした。そういえば、向うこそ父親に相応しいか―――。
「これ、毎年同じでごめんなさい」
そっと差し出されたブーケ。
手の中にすぽりと入ってしまう程の、華奢な花を束ねたブーケが差し出される。
オレンジの強く出たやさしい色合いのアプリコット。柔らかくまるく包み込む花弁が幾重にも重なって、今年もとても綺麗に咲いている。
薔薇なのだと聞いて驚いたのだ、薔薇と言えばもっと鮮明で気高くて、硬質なイメージだった。ありがちな固定観念ではあるけれど。
「ううん。今年は去年よりも花が大きいね、すごく綺麗だよ。素敵なプレゼントを毎年ありがとう」
彼女が育てたものだと知っている。
大事に育てている庭の花を、彼女は毎年友人や大切な人の記念日に贈る。
「それから、これ。持って帰ってポプリにしたの、きっともう全部枯れてしまったでしょう?」
差し出された小さな布の袋には、レースがあしらわれ可愛らしくリボンが結ばれていた。
そういえば、同じような事をあいつもいっていたか・・・。
「うちの、霧の守護者も同じような事言って全部どっか持って行って精油にしてくれたよ」
「まあ、骸さんはやっぱりそういう事をよく分かってらっしゃるのね!」
「いや・・・・こういうものは女の子の方が似合うんだから君が持ってたらいいのに」
「駄目。あなたが貰ったものだもの」
「そっか。うんそうだね、確かにあの人からもらった初めてのものだからね」
「・・・・んー、そっか、そうなのようね・・・んー――」
「?」
手に持ったサシェに鼻を寄せると、嫌味ではない甘さの少し官能的な花が香った。
あの神出鬼没で思考回路も理解不能な霧の守護者が、カットの芸術的なクリスタルの小瓶に詰めて綱吉に寄こしたものよりも少し香りは弱いが、同じものだと分かる。
最近、どうにもあの男に若干感化され気味なのかフィーリングを合わせる傾向があるので、綱吉は少しはらはらしている。
今年の誕生日当日、何百人と集う迎賓館はこの花が香っていた。
朝になって大量に届いた、青い薔薇。
ありとあらゆる場所に生けても、まだ溢れるほどの量の花は邸のものが手配したものではない事は、当日のあの引きっぷりからわかる。
長年の友人でもある守護者たちでもないのは、他に手配していた花のキャンセルに傷を押して走り回った挙句再度瀕死になっていた獄寺と、引き取っていった山本から分かる。
そもそも、薔薇なんてキャラは居ない―――。
いや、居る入るが『感動しました!大きくなって』と花を見て感涙していた男がやったとは思えない。
後で聞いた、といういか先代がこっそりと教えてくれたのだが、例の自分の正体不明の守護者かららしい。
先代の要望もあって、今日のパーティーにも一応招待状は出してはいるけれど、姿など見た事が無かったと言うのに唐突に送られてきた花に、驚きはしたが確かに嬉しかった。
5年分でお釣りがくる。
青ざめた薔薇。
目で見る分には、紫がかっているけれど、青の色素しか持たない純粋な花弁は、本当に開発が難しかったのだと教えてもらった。
今も、形や香りがうつくしくなった分大量栽培は少し難しいとも。
一輪手にとってみれば、丁寧に棘の取られた茎は滑らかで、紫に近い神秘的な青い花弁がどこか寒々としたものを感じさせるものの、凛として気高いハイブリッドの薔薇は美しかった。
そう、そしてどこか―――
「あの人を思いだ・・・・・・・出さない出さない!!」
「どうしたの?」
「ああ、うんいや。・・・どうもありがとう、でもどうして骸も君も手元に残すようにしてくれたのかな?」
確かにもったいないといえば、確かにそうだがなかなか思いつかないと言うのはそれは綱吉が朴念仁だからだろうか?
「え・・・だって記念日だもの。それにそれを、こんな風にお祝いされたらとっても嬉しいでしょう」
「たくさんの薔薇、綺麗だったものね。君から貰う花束の方が嬉しかったよ」
「ふふ、きっと来年はそんなこと言ってくれないのよ。ティモッテオのお爺様は、意味までは教えて下さらなかったの?」
「うん、送り主だけ・・・」
「青い薔薇はね、昔は絶対に咲かせられないって信じられていたの、その頃は『不可能』の代名詞。けれど人工的だけれど、今は咲かせることができたから、だから今は『奇跡』。ね?あなたが産まれて出あえた事は、この世界の奇跡なんだってそう言われるなんて、幸せな事でしょう?」
「・・・・あ。あああ、う、ん」
確かに映画や物語なんかでやれば絵になるだろうが、それが皆が皆口をそろえて人外魔境の魑魅魍魎と言う人(人?)から送られてきたというのだ。
一様には信じがたい。
いや、そもそも自分と同じく、それ以上に世間の常識に通じているとは思えないので、深い意味は無いのではないのかと思う。
「そんな事はないわよ?」
ふふ、っとユニが笑った。
口には出していないので、顔でも読まれたのだろうか。
「だって、運命なんでしょう?あ、ほらご本人だもの聞いてみたらどうかしら?」
「えっ、まさかほんに?・・・・・・・・・-----------------!?」
拗ねた物言いに、いったい何だろうと思った矢先。
視線が、綱吉を越えて背後に投げかけられる。
物が届いた次は、本人のお出ましなのか。何故ここで彼女が知っているのかは知らないがそれはそれ。
漸く会ってくれる程度には認められたのか。
それは、よかった。喜ばしい事だ!
事の筈だ。
けれど、この予感は何だ。
嫌だな、これは振り返ったらいけない!直感が騒ぐのだ。
けれど、それよりも強く、今振り返らないともっとまずいとも言う。
ギギギギギッとまるで錆びた機会が動くような音が、聞こえた。綱吉にははっきりと聞こえた。こんな音は、漫画の擬音でなければ無いだろうと思っていたが、人間やれば何でもできるものだ。
見えたのは、黒いタワシ・・・ではなくてリーゼント。
おやおや、ようこそ草壁さん遠路はるばるありがとうございます、何のおもてなしもできませんが、どうぞ仕事の事など忘れてくつろいで行ってください。
笑おう。
笑え、笑ってくれ俺の顔。
「もう!先に会っちゃったんでしょう、酷い!!」
酷い・・・
・・ひどい・・・・
・・・・・・ヒドイ・・・
・・・・・・・・・・・・HI DO I ・・・
少女の声が木霊する。
嫌だ、嫌だ見たくない!!
タワシ、じゃなくて草壁氏が歩いてくる、綱吉が必死に無意識ではなく意志の力で視界に入れない人の後ろに控える様にして――。
伸ばした背筋、凛と立つ姿、均整のとれた体躯、きっちりと着こなされたスーツはダークスーツではなくて、昼のパーティーらしく濃いグレーのフロックコートで。あなた、いまどき古風ですね・・・じゃなくて?
綱吉は、首だけで振り返るという微妙な体制のまま、一切の動作を止めて、たぶん呼吸どころか心臓さえ停止寸前のまま目ん玉引ん剝いた。今こそ視界が黒くなるとか、白くなるとかしてくれたらいいのに!!
「やあ。とりあえず、初めまして?」
それからおめでとう、と鼻っ面に突きつけられた花束。
その色は、紫がかった青。
香ったのは、今手に持っているポプリよりも鮮やかに生命を感じる。
ある意味、頭から離れた事が無いあの夢にも何度もみた綺麗な綺麗な顔が、今目の前匂い立つ薔薇の向うにあった。
さらさらと揺れる髪は、漆黒。
同じ色の瞳は、涼やかに細められて、薄い唇が形作った笑みに戦慄が走った。
「ね?・・・どうしたの?」
無邪気に笑って、自分の腕を撮ったユニ。目の前の現実から、どうにか死ぬ気どころの話ではないくらいの労力で視線を外して彼女を見やった。
しってました。
この前ナンパしたお兄さんが、君となんだか仲良さげなのは、兄さんしってました。
そのことについて、ハゲそうなくらい悩んだ数週間の苦しみを、俺は忘れる事が無いでしょう――生涯。
けれど、今もう一つの恐ろしい、これは世界崩壊よりも俺にとっては衝撃であるこの現実を見てしまいました。
ハゲだの、バケモノ、だのゴリマッチョだの、罵ったのに、のに。
人外に綺麗なお兄さんだっ・・・・・・・・・・・・
違うそうじゃない。
あ。
そうそう。
大変です。
本人目の前にしてあれだけ暴言吐いた俺は、案外早くその後悔だらけの生涯が・・・。
生誕を祝われる日に、人生がおわります――――――――――――。
ラブストーリーは突然ですが、けっこう必然と、色々な思惑も絡みます。