他人を使う事に慣れた仕草だった。
即位当時の若々しさが欠片も無くなった現実は、無性に過去を懐かしく思い起こさせる。
ふうと、気だるげな溜息のおまけまでついてくる。
その仕草が、何処か他人を喰ったような感じがして何処までも、アレな感じの女王だと思わずにはいられない。
ちょいちょいと指で呼ばれて、少し寄るとなんの内緒話なのかと身体を屈めた。
「あきちゃった」
「・・・・・はぁ?――ッ、ド・・・・・ゥフ、みぞ・・・・・・・・お、ち―――」
無茶苦茶言いだした形式上上司に当たる青年の膝の上、今までプ―プ―とでも寝息が聞こえそうなまでに、ふくふく気持ちよさそうに目を閉じていた鳥。
唐突に開眼したそれに、嗚呼またかと思いつつも毎回毎回同じようにくらってしまう。
キラッと目が光ったかと思うと、光の速さで飛びだした黄色い弾丸が鳩尾をぎゅるるるっと抉った。
何度受けても、泣ける痛さである。
―――――― ポンッ。
キタキタキタキタキタキタ――。
このコルクが抜けるオモシロ効果音は、悪魔来訪のファンファーレ。
いったい自分が何をしたと言うのだろうか。
酷いにも程がある。イジメにも程がある、ドメスティックバイオレンスにも程がある!
「誰が誰にドメスティックなんとかだって?」
衝撃によろよろとあとじさり、腹を押さえるパイナップル頭に突如として影が落ちた。
無駄にいけてる冷たい声が後頭部に突き刺さる。それだけで人が殺せる視線が痛い。
ホントに泣いていいだろうか。
「・・・・・・・ひばり、く・・・・ちょっ、と、ご挨拶が、すぎ――」
「ッキャーvvも、ちょ、やだっ、リアル雲雀さん今日もチョー☆カッコイイ!!」
絞り出す声に被せた黄色い声援は、もう本日ここまでのどの仮面を付けた彼の面影も残してはいなかった。だから、来たくなかったのに!!
やだ、もう、今日も女王陛下ほんと狂ってる!
・・・・・・・・・何なの?何なんです?その、女子高生みたいな黄色い声。
リアルって何?
乱入者、いや初めからいたのでそう呼んでいいか分からない声の主を勿論知っていた。
艶やかな黒髪、夜の色をした冷たい輝きを宿した瞳、毎日毎日飽きもせず、ツラの皮が分厚い女王に彼の素できゃーきゃー騒がれる整った顔立ち。
勿論隙など無く身に付けた燕尾の上着も、綺麗に結ばれたタイも、プレスのかかったスラックスも、磨かれた靴も漆黒。由緒正しい執事の正装。
同業、あらゆる意味で同僚で同業の彼は本日も御変りがない。
この人、ほんとにモノトーンしか似合いませんよねきっと。
そう思わせるには十分なツートンの美貌。
「僕の綱吉が君にDV?おこがましい!」
「バカ仰い綱吉君に興味なんて・・・・・・・・・・・っちょ、この答えでも怒るんですか!って、痛っ、痛い、痛いです。刺さる刺さる」
君には、綱吉の魅力が分からないの、哀れな生き物だね?
分かってたまるかってんですよ!
朗々と愛しの女王への愛を語りながら、ぷすぷすと頬をつつくのは、得物であるはずのトンファーではなく彼が毎晩一式磨き上げているシルバー。
ただのフォークと侮ると痛い目を見る。現実に、とても痛い。かつ、とても刺さる。
なぜフォークがこんなに磨いであるのか。執事が、大事な銀食器になんという事をしてくれるのか。
女王が常に肩に乗せているのは、ペットなどではなく、最高の護衛である。
国宝のリングを一つ預かる、れっきとした守護者の一人。強豪揃いの守護者の中でもダントツの戦闘能力に加えて、この顔と実用的なことから何の役にも立たない無駄なことまで、一通りこなす女王陛下の秘書武官兼執事である。秘書やってるのかと言われると、疑問だが・・・・・・・・・・・・・・何せ、菓子や食事を作ったり一緒に昼寝したり、それ以外はイチャイチャしている所しかみた事が無いので。
勿論、こんな本当の規格外、只人などではない。
悪魔で執事で、飽くまで鳥。
はい、そこ。笑うところじゃありません!
付くもの付いてるくせに女王様で、けれども臣下の信頼は放っておいても集まって、それなりに住みやすい国に治めてて、おまけに割とソコソコ腹も黒くてアングラで、国主としての資質は、一応認める事実上の上司。、自分の中の何かが貧しくなるので直視したくない己の心ではあるとは付け加えておく。コレに付き合うと、疲れるのだ。もう、本当に。
そして、ドでかいおまけが、アレである。
幼少時から、家庭教師を務めていた万能スーパー宰相がとうとう匙を投げた病気持ちだったのである。
ほんとはすっごく苦いとこあるのに、みんな上辺の甘さに騙されて気付いてないんですよ。
―――――・・・・・・・・ママレード・クイーン!
寒い。なんて寒いのでしょう。
「雲雀さんのね、愛でね、じっくりコトコト煮込んでもらってるから…」
あ、そう。
「砂糖と蜂蜜はどれだけ注ぎ込んでも足りないからね」
それで?
勿論、今にも理不尽さに白目を剥いてしまいそうな哀れな外野を他所に世界は二人の為に回っていた。他人に見せ付けて興奮する様な性癖でもあるのだろうか。いいや、違う嫌がらせであると、十分知ってる。
おいで。と広げられた胸に、お伽噺の御姫様の様に飛び込んでいく。
「もう眠く無いですか?」
「すぐに晩餐の時間だからね。今日は何が食べたい?」
「今日も作ってくれるんですか?嬉しいです!」
「最近、会食ばかりで胃も疲れてるだろう?何かやさしいものの方がいいかな」
「雲雀さんが、作ってくれるものなら何でも美味しく、残さずいただきますよ?」
「いい子だね。でも、分かってるよね?僕もお腹すいてるんだよ・・・・・」
「・・・・・・・ぁ・・・・・ん。わかって、ます・・・・・よ?」
「うん。可愛いね、こんやも」
―――― あああああっ、もう耐えられません!
「るせえなッ!いいところで」
「・・・・・・・・・・・」
巻き舌?高貴な生まれのくせに巻き舌?
漆黒の青年にしな垂れかかる白い身体には、腰から回された腕が絡みつく。耳元で直接一人にだけ吹きこまれる囁く声は、けれどこの距離ではまる聞こえだった。
無言で飛ばされてきたナイフとフォークは、避けなければ確実に眉間に刺さっていた。酷い、ほんとうに。
「お言葉ですけど、ソレ僕のセリフじゃないですよ」
そうそう、書いてる人間の限界だった。
「解ってるさ。根性無し」
「ヒバツナラブラブトークを十ページくらい書き連ねられずにどうするっていうの?」
いや、どうもしません。残念ながらどうも出来ずに此処まで来ました。
「わかりました。あなたたちが愛し合ってるのは十分解ってますし、美しい愛の前でガタガタ何かをぬかすような無粋な真似はしたくないので、詳細かつ簡潔に僕が召還された理由を教えていただけますでしょうか?」
話を戻したい。
このままでは埒が明かない。別に放っておいてもいいのかもしれないが、後々問題が出てきたらそちらの方が面倒臭そうだ。
『聞いた覚えがありません』が素直に通じる相手ではなない。真顔で『言った覚えもないからね』と来た日には独り枕を濡らした。
夜道で刺してやろうかと思いもするけれど、漆黒のキャラ崩壊雲雀恭弥が付いていては帰り討ちにされる、雲雀がいない時を狙ってみたら、最強の守護者をたらし込んだ最凶の女王様に滅多打ちにされる。
骸は静かに、己の生涯を振り返った。
どうしてこんなところに来てしまったのだろう、と。
「あの、もうホントにページも足りないんですけど?」
ペラ本の再録なんてちっちゃい事をやっているが故の、ちっちゃい台詞である。
言いたい事は山ほどあるが、とりあえずは腰低くどうにか落とし所を見つけるべくお伺いを立てる。
飽きたとか何とか云う言葉の続きはなんだ。どうせ碌でもないだろうが。
「えっと、なんだっけ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この、アマッ。
女王を抱き締めながら、雲雀がデレッとした。
ナッポ―頭の執事を苛立たせてなお余りある、主のことりと首を傾げる仕草が下半身にグッと来たらしい。やーん、雲雀さんもっとギュッとして、名前で呼んでくれたら幾らでも抱いてあげるよ、もうっなんかちょっと言葉の響きがいやらしいです!
括弧で閉じるのも面倒な会話であった。
「それじゃあ、僕は帰っても?」
げっそりと肩を落とした。
帰って、うちの可愛いお嬢様の御世話を焼いて癒されたい、このホモカップルに滅多刺しにされた繊細なハートを労ってやりたい。
「なあ、ホモよりロリの方が罪は重いと思うぞ」
「煩い!あなたに僕の気持が解ってたまりますか!!」
「興味ない」
そうでしょうよ、そうでしょうよ。
「解りました。あなたたち、ほんとに暇だったんですね、良く分かりました。仕事が溜まらないなら何やってもいいとかあの敏腕宰相が折れてから、お仕事貯めたことありませんでしたもんね公私の分別があって大変よろし」
「うん。宰相が今一番公私の分別ないし」
人の話をぶった切るのが好きな育ちの良すぎる陛下だ。
どこぞの日本とか言う国では国の代表国会議員が他人の話を聞けない昨今、珍しくもなんともない為政者の一人であったか。自分に対してだけと言うのが泣けるが。
「は?」
「愛に生きるとか行って、みつあみの死神の尻追いかけまわしてるよ。だから、今アイツの仕事が溜まってる」
こんな醜態外に漏れたら王家の、国の恥だ。
けれども、使えるものは皆役職持ちで忙しい。それならば、趣味半分に子育てをしている者を呼び出すまでだ。
「そんな訳で、キレ者の骸君。何がどうなってのっけから延々とやってきたお前のターン、あきちゃった…。別に要らない微妙なシリアス調とか、もうそういうのいいから。求めて無いし、求められてないし。大事な俺と雲雀さんの愛のメモリーになるはずだった話が、全部。ぜんっぶ流れたからおとしまえつけろ」
ここヒバツナサークルだし!クロムクでもムククロでもじゃないし、って言うかクロームお前になんかやらないし。
言いたい放題、はっ、とかへっとか言う笑い方が良く似合う柄の悪い女王様である。
それを、仕事モードも、とても素敵だねと微笑んで見つめる雲雀は度量が深いのか、単に目ん玉曇っているのか。キャラが壊れているから仕方がない。
「それ、本題ですよね?」
もういい。慣れている。
こういう酷い展開、慣れっこ過ぎて、無いと淋しさを覚えるほどだ。
こうなった身体をドМと呼ぶか、もしくはお約束ワンパターンと呼んで乾いた笑いを零すかで何が変わるわけでもない。
どちらも合っている気がする。
選択肢無く、事務仕事決定。しかもその量はとてつもないときている。確かめるまでもない、この二人の事なのだ、急を要する物以外全て、貯めてあるに違いない。
「綱吉君、雲雀くん。このミッション終わったら僕、いい加減お暇貰ってもいいですか?」
疲れた。この二人に揉まれて、こういう構われ方も実はちょっぴり楽しくなってきただなんて認めるくらいなら、暇乞いをしてやる!
「いいよ」
「そうですよね、やっぱり僕がいないと・・・・・・・え?」
「その為に霧に適合したクローム連れ戻したんだし」
「綱吉が望むなら、後は僕が教育してもいいけど?」
「もう、なんか・・・・・・子供ができたみたいですね」
「気の早い子だね、でも幸せにするよ」
また二人の世界が始まった。そうして、またおいてけぼりだ、がちょっと待て、今回は待ってくれ!
―――あ、あれ?もしかして 僕………
なんだかんだで骸さんは幸せなので、お気遣いなく!
・・・・・すいません、綱吉を女王様と呼びたかっただけだと、それだけ、ほんとうにそれだけの話で――
ラブラブって何?ナニソレ、どうしたらいいのorz