返り討ちにあったら、



その可能性は、無い!!(彼の中に)



―――――― チンッ 。


「おい、何の音だ?」
「……あ、もう少し時間いるかな。いや、そんな事はどうでもいいから、もうお前仕事いけよ」

何がどうでもいいのでさっさと今日のところは帰ってくれないかな、なんて事を考えながら使い込んだ万年筆を指先で弄びながら綱吉は書面から顔を上げた。
目の前には、白い皮張りの大きなソファに我が物顔で陣取ったいい歳をした男が一人。
目深にかぶったボルサリーノのツバの下から、鋭い視線を綱吉へと向けていた。
しかし、かといって生徒は今更その程度のことでびびったりはしない。

綱吉は、無駄と分かっていても言わずにはいられない。
自分は絶賛デスクワークまっただ中だと言うのに、目の前の男は暇を持て余しているように見えて、忌々しいことこの上ない。
……本人にとっては人生掛けた苦悩のド壷の底辺であっても、知ったこっちゃない―――。
放っておいたツケが回ってくるのは、どうせ綱吉なのだ。
こんなじわじわといたぶられるくらいなら、もういっそ一思いに、でかくて、ビッグで、ラージで、ヒュージな核爆弾を最期の最期に背負ってやろうと言う覚悟は、できて………したくないけど、目先の事を一つ一つ片づけておいても、どうせ結末は同じような予感がするのである。


「は?仕事なんざやってる場合じゃねーだろう。俺様は今絶賛放置プレイ真っ最中だ」


そしてまた、笑えない面白い事を言う。

別に先生は暇な人じゃない。
世間様には伝説のヒットマン。依頼は完璧にこなし、狙った獲物は逃がさない。
暗殺から身辺警護オールマイティな先生にお仕事のお話は引っ切り無し。とんでもなく額を吹っかけて、ぼったくりな支払いを求められてなおこっちの世界じゃ大人気。
ただし、彼はクールでスマートな謎のヒットマンであるので結構気難しいし、仕事はそれはもう選り好みする。

皆さんこの男の中身をご存知ですか?
こんなのですよ?
いいんですか?
放置プレイとかもう、なんか超うけるんですけど?


大声で触れて回りたいけど、まあ……なんて言うかそれはそのままボンゴレ]世の恥じにもなり得るわけで。
今やヨーロッパ闇社会に幅を利かせたボンゴレ]世が、彼の愛弟子であるというのは、公然の秘密である。


「まあ、暫くメールも手紙も全部やめだ!!」
「………そう、その割に手が淋しそうだね」


右手の親指が小刻みに震えている。
何かの中毒ではないか。
携帯弄ってないと落ち着かないなんて、現代っ子の弊害ではないか。重ね重ね嘆かわしい。




―――――― チンッ 。


「うるさ……、ほんとにさっきからうるせーな、なんだその電子音は」
「ん?―――…ぁっつ」
「……おい」」


きょとんとした後、綱吉はリボーンの問いには答えることなく身体を捻って、何やら引き出しをあさり始めた。
リボーンの位置からは見えないが、デスクの一番下段の引き出しであるらしい。
行動に多少の問題があるのは今に始まった事ではない(外野に言わせると『やっぱり師弟』と言うだろう)、だからといって気にならない訳でもない。

何よりも、他の事で気を紛らわせないと無性に叫びたくなるのである。


病気である。
いやまったく。本人に綱吉をいたぶっていると言う自覚が……恐ろしい事に本当にないのだ!
であるので、非常に救いようが無い。

カタンと陶器の音がして、デスクの上には皿が現れた。
こんもりとした丸いものが載せられた、皿。
ご丁寧にラップまで掛けてある。


「いや、だから。肉まん……」
「お前、バカなんじゃないのか!!?」

足元にこっそりと小さな冷蔵庫、冷凍庫を作り付け、デスクに電子レンジを隠し持つボスがここにいる。


「正一君につくって貰ったんだけど。便利だよ?」
「必要性があるのか!?」
「だって、みんな食品添加物不可とかくだらない事鴈首揃えてほざくんだもん」

たまに欲しくなるでしょ?冷凍食品。
冷めたお茶もすぐあったまるし、便利だよ。
私室だとばれるんだよね、恭弥さんに!黙っててよね!!

続いた言葉はそれである。
そうまでして食べたいのか。
いや、私室じゃなくてもあいつにはばれるだろう・・・・・野生の獣よりも洗練されたセンサーを持つ男だ、殊恋人の事となるとそれが異常に磨きが掛けられるのも、事実である。超直感を出し抜くのだから正直オソロシイ。


まあ、それは。いいか
どうせ、構ってもらいたい行動の一環だ。



「まあいい。しかし、それはナンだ?」
「だから、肉まんだって。二月の二週目にシュウマイとセットで香港から届いた」
「にがつ…にしゅう……」
「防腐剤なんかは入ってないので、冷凍でも一月いないくらいには食べてください。って書いてあった」


香港、香港、今誰が居たっけな。
誰が・・・・。


「お前はそんなに俺が嫌いなのか!」
「今の先生はめんどくさいし鬱陶しいとは思ってるけど、嫌いじゃないよ?」
「よし良く言った。エーゲ海に鎮めてやる、まずその前にそいつを寄こせ!」
「いいよ」
「いいのかよ…」
「うん。リボーンにとられたって泣きつくから」
「お前は人として最低だ」
「だって、マフィアだモン」


白いソファの上。
ぐったりと先生は沈み込んだ。
帽子の下から覗く目が物哀しい。天井を睨んではいるけれども、何処を見ているのかもはや分からない。




「いくらツンだって言っても、この仕打ちはどうなんだアイツ。ったく、そろそろ百年の恋も冷めるってもんだぞ?」


あえて言う。
恰好だけは付けているものの、奇行を繰り返した男のセリフではない――。

「自分の胸に手をあててみたらいいんじゃないの?」
「愛で溢れてるぞ」

その溢れる恋心をちゃんと表現してますか。
というか、妄想じみた行動は慎んだ方がいいですよ。
ストーカーとか言う言葉もありますし。
周りに迷惑を掛けるのも止めましょう。
できれば、キャラも守った方がいいですよ。
なによりも―――……。

「久々に愛人の10人や20人でもつくってみっか?」

目覚めてから愛人切った所は、当然の事としても評価しますよ先生。
そこだけは。


「もうちょっと落ち着いてその愛を見つめようよ」
「俺は常に情熱的かつ冷静だ」


…………だからよく考えてくださいよ。
毎日毎日送るメールに返信はありますか?
暇さえあれば食事にドライブに誘う電話はいつも話中ですよね?
上手くどこかでばったり会っても、いつも笑顔で声より先に手が出ますよね?
その昔二人の関係は?と聞かれて風さんが素晴らしき笑顔で答えた『けっこんぜんていのおつきあいですよ』
なんて、言葉に踊らされ過ぎですよ。
以外に純粋ですね。
遊ばれてるんですよ。

けっこんは きっと 血痕ですね。
わかります。
あの恭弥さんですら、分かったってんですから。
親父ギャグですね。構いません、だってもうお友達には孫までいるお歳ですもの。

よーく考えてごらんなさいよ?


―――そもそも、好意を示してもらえた何かがあったんですか……。ツンデレというやつは、コレ…デレが無いと成立しないわけで


疑いもしない貴方の行動のハッスル具合が凄く謎なんです。
ねえ…先生………。あまり考えたくは無かったのですが、真面目にいろいろ挙げ始めると生徒はそろそろ泣きそうです。

愛人?
大いに結構だと思います。結構ですが、どうせスルーされて凹むんだから今の内に止めてください。その程度で気が惹けるってんなら、そんな苦労してませんよ!!(主に俺たちが)
愛されていると言う自意識は何処から沸いてくるのか。
無から有が生まれるミステリー。




『え……嫌いになる?そもそも私は、嫌いなんですけど?』


綱吉としては、容易に…それこそ、昨日の晩御飯を想いだすよりも簡単に想像がついてしまう。
素晴らしい笑顔ではなくて、きっと小首を傾げて少しこまった顔で、さも申し訳なさそうに言われるに違いない――。






だってそっちの方がダメージでかいから。

















師弟揃っておバカさん。