「なあ、リボーン……お前ひとの部屋でそんな廃人ぽくなるの止めてくれよ」
本人いわく、雲雀とお揃いのマグカップを片手にウンザリしながら綱吉は家庭教師を見やる。
「はっ。誰が廃人だ、この俺様がどうしてそんな美しくない事態に追い込まれなくならねーんだよ。このバカツナが」
そんなふざけた事ぬかしてる暇があったら書類の一枚でも読んでろこのカスっ!!
カスって、それ誰のセリフでしたっけ?
辛辣な言葉も、ソファの上で優雅に足を組んでティーカップを傾ける仕草に内容が霞んでしまっていけない。
所作の美しさは、ガチガチというか、なんというか微妙な硬さがあって一枚絵としては完成されていても、正直動画としてはどうなんだろうと首を捻らざるを終えない。
何しろ、醸し出すオーラというか哀しい背中が語る心情が鎮痛なのである―――。
あーあー……
これだから、無駄にプライドの高いばっかりの男は嫌だよ。
扱いは別に難しくは無いけれど、鬱陶しくていけない。
たかがイベント。
そんなものに踊らされていいのか先生。
泣く子も黙る死神の異名が泣いている。
まったく、ほんとにそれどうにかしたら何か他の新天地が見えてくるかもしれないと、綱吉はちょびっと、ほんの少し、僅かに、思ったりなんかするのだけれど確約の無い事を口走る事はあまりしたくないので黙っている。
その様子をどこか楽しんでいる……せせら笑っている人が居る事知っているので余計に……いやはっきり言うと、先生崩壊の原因の人であるけれども。
無駄な事は言いたくない。
愛にもいろいろありまして。
―――うーん、どうだろうか。
愛
かな?だといいな。
綱吉としては、どちらかと言うとそんな家庭教師の日増しに可笑しくなる生態を目の当たりにして、かつて黒衣のヒットマンの皮をかぶったそれに、好奇心と交戦への熱望、なんだかいっそ恋ですか?と問いたくなるような熱い視線を彼に向けていた恋人。
雲雀恭弥の熱視線が
事あるごとにまるで今まさに冷めていくお茶の様に温くなり
愛しい人を待ち焦がれるような瞳がそろそろ3煎目に入る出がらしの茶っぱの様に味気なくなり
腫れものに触るようなものに代わり
視界にも入れたくないという拒絶になり
とうとう……憐憫に変わった。
その事がもう哀しくて哀しくて堪らないのである。
十代の頃は、リボーンにこっそり嫉妬なんかもした。
嗚呼、それはなんと昔の事であろう――。
リボーン先生は絶賛恋をしている。
凄く、凄く恋をしている。
報われない恋というには結構相手にされている……あらゆる奇行を放置プレイという名の……ので、なんともコメントしづらいこの現状である。
とりあえず、なんかもう、みてて哀しくなるくらいの、中学生のような恋をしている。
スイッチが入ったのはいつだったか。
出あった頃の先生はこんなじゃなかった。
出あった頃のリボーンはあんなんだったな――。
ワニ連れたマッドサイエンティストまでそんな事を言うのだからきっとそうなのだろう。
おかしいな。
せめて、死神の皮をかぶったまま、自分たちを騙し続けたまま目の前から消えてほしかった。
とりあえずまだ黒衣のヒットマンの皮をギリギリ繋いで見せている兄弟子や、自分の親友たちはどうか死ぬまで騙してあげて欲しい。
因みに、自分たちもこんな感じだったかな?
と、以前恋人と二人そっと目配せしてみたけれど……いやここまでではなかったよね?
とお互い頷いた。
だいたい、コレと同程度だったとして十代前半の自分たちの行動はきっと微笑ましくも可愛かったに違いないのである。
中学生の中学生による中学生日記。
何が悪い!?
なんだっけ?
この状況はどうして齎された?
そうそう、確かバレンタインのチョコレートをリボーンが貰えなかった事に起因している。
正直どうでもいいけど。
めんどいなァ………
「なあなあ、リボーン。お前、そんな日本にかぶれてないでよく思いだせよ?」
「あ?」
「バレンタイン。女の子から贈りものって日本の製菓メーカーの陰謀だろ?そもそもこっちじゃ男からが主流じゃないか?」
「………」
はッとする先生の顔。
見なかった事にしておく。
男と女とか、そんな言葉をこの場合使うのはなんか不適切な気がしたが、ストレートに受けたり攻めたりどうこうの方が表現として、後々の禍根になりそうなので止めておいた。
爽やかな美貌の拳法家対策で。
そもそも、自分がポジション的に男で居られると疑いもせずにいるところが、リボーン先生のリボーン先生たる所以なのである。
ここを捨て去ってしまった時、新しい大陸を発見できるかもしれない、かもしれないけれども、かといって提案してみる気はさらさらない。
下手をしたら、綱吉の中で裏怖い人ナンバーワンを奈々と取り合う風先生を敵にまわさねばならなくなるのだ。
ぶっちゃけ他人の寝室事情なんてどうでもいい以下の問題である。自己防衛第一。
自分に何かあったら、恋人が泣く。
「まあ、俺は雲雀さんが提案して来たらある程度なんだってのるけどね!」
「―――は?」
「こっちの話」
「なあ、ダメツナ……」
「うん?」
「俺は、もしかして間違っていたのか?!」
おっと、いけない。
気付いてしまったのだろうか?
背中をピンと伸ばした綱吉。けれども彼の閃きはそこではなかったようだ。
曰く。
ああ、済まない俺とした事がお前がそんないじましい思いで、待っていたなんて!!
今すぐにでも百万本の深紅の薔薇を(以下くだらないので綱吉フィルターにより適当に省略)
途端にスポットライトが当たった先生の一人名演を無視して、綱吉はなんかおなかすいたなとぼんやりと虚空を見上げた。
実は続いてる酷い話