何事もなく、過ぎ去った。
そう、年に一度の乙女たちの一代イベント。
恋人だとか片想いの彼とか、片想いの彼氏とか、突然であったあの人に私の愛を受け入れて!
糖類と交換に堂々と、声高にほとばしる魂の叫びを解放する日。
ヴァレンタインが!!
「なあ、おかしくないか?何事もねーってのはどんな了見だ」
「っふぉはひ……おかしく、なんかないと思いますよ。先生」
ここに哀れな恋の敗北者が独り
三月に足を踏み入れて久しい体感季節は一応まだ、冬。
麗らかな昼下がり。相も変わらず、イタリアの空の下黙々と仕事をこなしつつ仕事そっちのけで、スナック菓子を頬張るボンゴレボス・沢田綱吉と面白く無さそうに吐き捨てる様に不満を垂れ流し続ける元家庭教師。
「いや、いいやオカシイ!この俺様にチョコレートの一つも寄こさねえってとこがオカシイだろう?」
「香港のチョコはおしいく無いから遠慮したんですよきっと………あ、これは心ばかりのフォローだけどね」
「心遣い感じられねーコメントを、どうも」
「籠ってないから感じられやしませんよ先生。社交辞令社交辞令」
「………」
随分態度のでかくなった生徒。どうしてくれようかと米神に血管をうっすら浮かび上がらせた先生。
生徒はと言えば今となってはそんな先生の様子を横目にも、まるで頓着しない。
もごもごと口いっぱいに詰っていた菓子を飲み込んだ後、テーブルの上のマグカップから茶をすすっている。
「まあまあ、先生。乙女心は微妙だっていうじゃないか?行くか止めるかジレンマ的な?」
「ふ………アジア人はシャイだな」
「ははははは。よせよ、惚気るなよ」
我らがリボーン先生は絶賛恋に生きている。
チョコレート一つでガタガタうるせーな!
そんなにバレンタイン、バレンタイン言うなら自分から渡せよ馬鹿野郎。こっちじゃ、ペアでプレゼント交換当たり前だろう?変なとこ日本にかぶれやがって……。変な男のプライドなんざ捨てちまえ。
ん?向こうも男だって覚えてるかなちょっとしんぱーい。
因みにとても大事な事だけれども、二人がお付き合いなどしているとは聞いた事が無い。まったくもって。
・・・・片想いなんですよ先生……いい加減認めて、無駄にメールしたり、電話したり、上から目線のアプローチしたり、するのやめて現実を見つめて身の振り方を考えましょう?ね?
風さん、悪い人じゃないから。
先生の誠意を足蹴にしたりしないよ。たぶん
だって「え?なんですかリボーンの事?可愛いですよね」なんて、あまりにも爽やかで、爽やか過ぎて黒さが隠せない素敵な笑顔で先生の事、褒めてたよ!空回って必死な先生が可愛いなんて言うの、六道輪廻回って三界しらみつぶしに探してもこの人くらいだよ!!
偉人だよ!
……好き嫌いはこの言葉では判断できないけど!
だから、現実を見ようよ!
思う事は思うが、口にはしないのが教え子の優しさ。
何時もの先生からは懸け離れた直視できない顔してないで、お茶でも飲もうよ?
お茶菓子も一杯あるよ?
ほら、いただきものだけどこのマドレーヌ美味しそうだよ?
ポットを手に、来客用のティーセット、繊細なカップにふわりと香り立つ紅茶を注ぐ。
ソーサーに載せて手渡すと、それを一口含んで嚥下したリボーン先生は少し気分を落ち着かせた。
「おまえ……この最上級アッサムのファーストフラッシュでそのえびせんを流し込ん<BR>
だのか?」
せせら笑ってやる。
そう。
そうだ、今日ここに来たのは別に不満を垂れ流すためではない。
毎年毎年、愛の日に恋人から 『既製品』の『スーパー』『コンビニ』で買える『スナック』を貰っている弟子の姿を見て、心を慰撫しようと思っての事である。
「いや。違うよ。ちゃんと俺のカップの中身は緑茶だよ」
自分の席に戻ってカップを取った弟子はきょとんとしている。
邪道とは言わないが、由緒正しい彼が愛する母国のスナックを食するに当たっての飲み物は、アルコールでも勿論問題は無いけれど、彼としては緑茶を大プッシュしているのである。
そして、次の瞬間テレっと頬を緩めて先生への迎撃を開始した。
「いつも身体に悪いからスナックとかファーストフードは駄目って言われてるんだけど…あ。ほら俺生活不規則だから食事くらいちゃんとしてって、逢った時は添加物一切使ってない調味料とか無農薬野菜とかで和食御馳走してくれたりいろいろ気をつかってくれるんだけど、それはそれで勿論美味しいから文句なんて欠片もないよ?でもほら、お菓子って別腹でしょ?手作りのトリュフもフォンダンショコラもシュークリームもザッハトルテも苺大福も、大学芋も既製品とかもういらないんだけど、でもやっぱりジャパニーズスナックは美味しいんだよ!!年に一度くらいはいいよって買ってくれるんだ〜えびせんとかポテチとかジャガリコとかちゃんとスーパーとかコンビニ自分で行って買ってきてくれるんだよ。あ、知ってると思う…ご免ごめんまだ話して無かった?このマグカップもお揃いなんだよ、この前デートしてた時に見つけたんだけど二人とも一目で気に入ってペアで買っちゃったんだ」
それ、どこの雲雀恭弥?
小首を傾げて笑う教え子。
あの雲雀恭弥が頬を緩めて可愛いなあとデレる仕草である。
あれか、そうだ。
あれだなきっと……経費削減てやつ?
そうそう、匣研究金掛るからきっとそうなんだな。
ただし、せんせいは思う。
あれ、なんでおれこんな負けた気分なんだろう。
「お前と、雲雀はもう少し恥じらいとかいう、日本古来の奥ゆかしい乙女心を持てばいいんじゃねーのか……」
「何言ってるのさ、俺も恭弥さんも男の子なんだから乙女心なんて持ってるわけ無いじゃないか!」
「あーあー、へーへー、そうだ………な…?」
「ね?」
「つかぬ事を聞く、おまえ……男だっけ?」
「……フェミニストのお前が、あれだけしごき倒した俺が女だって?」
「雲雀は――…悪かった、分かったから。そんな冷たい目で俺を見るな……」
「先生の初恋のシルシ、もみあげ切っちゃうとこだったね」
「はつ……、まあいい。所で、あいつは―――」
「ああ、風さん女の人だったの?だからお前ともあろう人が毎回、拳でボコボコにさ<れてたんだね!わお、フェミニスト!!」
「いやいや、そんな事はな……い、はず」
「お年頃の、イーピンの乙女心がちょっと分からなくなってきたって嘆いてたしね。父親って哀しいもんだから」
「えっと…なあ。その悩める乙女心の恥じらいでチョコレート……来ないんだよな」
「さあ?」
―――フォローはしないと言った筈ですけども。
正直すいません……
出来心です。ほんの―――