唐突に何の脈略も無くまさかの芸能界パロ




「鳴上さんは、なんていうか……反則だよねぇ」
「唐突にどうした?」

 スタジオの片隅にテーブルを移動して、少年二人はスタッフの邪魔にならない様に他の役者のスタジオ入りを待っていた。どちらのマネージャーも、今は打ち合わせで席を外している。
 鳴上、と呼ばれた少年……既に青年の域に達しているようには見えるが高校生である… …彼は首を傾げた。
 目の前では自分より頭一つ分程ほど背の低い少年が、紺青の髪を無雑作にかき混ぜながら、口を尖らせてコーラのペットボトルに口を付けている。
「だってぇ?勉強できるし、アクションだってスタントなしでやっちゃうし、舞台からの転向だって言うのにもう完全に場馴れしてるし、おまけにやけに気遣いできるし、俺たちの事だってまめに構ってくれるし……まあこれは置いとくか。そんで、おまけにそのルックスだし、身長ちょっと寄こせ!」
「天才子役にお褒め戴けると光栄だよ。身長は追々ね」
 少し肩をすくめて無難に対処してくる姿が何ともいえず絵になって忌々しい。
 未だ子供らしい子供のままの自分には、どうしたって嫌味なガキのマセタ仕草にしか映らないであろう事を考えるとずるいなあと思う。たかだか2つの差ではあるが、それが大きいのか素養なのか。
 そもそも他人の個性と被らないからこそやっていける人気商売なので、同じになる必要はないのだがスペックを並べるとどうしても同性としてコンプレックスを刺激された。
 それを嫌味に思わせない人となりを知ってしまうと更に。
 若い役者の多い現場だがここでは自分たちは年少の部類に入るから、業界は長いが周りは良く気を使ってくれる。
、前半から少しずつ出ていた片割れとは違って、中盤になってようやく参加した自分にも居心地がいい現場というのはなかなか珍しいと思う。
 そもそも、メインキャストにはそれぞれ女優、歌手、モデル、アイドル、声優なんてのもいる。
 皆それなりに名前も通っていて、仕事も被っていないせいか、ありがちな剥き出しのライバル意識があまり感じられない。
 時折時間が空いた時に顔を出す程度だった自分にも、彼を始めとしてメインキャストのメンバーはすぐに気安く話しかけてくれた。
「身長……か、この歳になると、天才子役つってもケッコー進路悩むんだって。俺たちはどうにか渡ってきたけどつぶれてく子だって多いし」
「寂しいの?」
 穏やかにグレーがかった瞳が細められた。
 考えていた事などお見通しなのだ。
「ずっと一緒にやってきたんだし、寂しくないって言ったら嘘になる」
「そうだね」
 掛けられた声。
 他の人間だったなら『何も知らない癖に』と反発を覚えただろうが、彼には素直に頷いてしまえる力があった。
「ずっと双子で売ってきたし、方針自体は変えないって事務所も言ってるけど俺も、直斗もやってみたい事はあるし、これから性別の差がはっきり出てきたら仕事だってそれぞれ分かれる」
「……………直斗も、同じような事言ってたよ」
 君たちの事だから、知ってるだろうけどねと瞳が声無く言っている。
 先ほどかき混ぜた髪を整える様にして、年下の子供をあやす仕草で頭をぽんぽんと撫でてくる手が少し恨めしい。
 セットを見ると、そろそろ自分の出番の様だ。
 未だに他人の頭の上に手を置く年上の同業者に、彼は胡乱な目を向けた。
「それもあるけど……」
「うん?」
「爽やかな顔して、腹黒い男に大事な妹が誑かされそうで困ってるんだけど」
「それは困ったね、それじゃあ俺がお姫様の救出に行って来よう」
「あんた、そういう情緒はアイツまだお子様なの!何楽しそうな顔してくれてんの……今、顔締まりないよ」
 先ほどセットの間からスタジオ入りした双子の妹の姿が見えた。もともとよく似ていたけれど、役の都合上今は衣装とメイクの力もあって完全にドッペルゲンガー状態である。
 その彼女が、こちらを見つけて頬をほころばせた瞬間何か考える素振りをして踵を返した。
 彼女の目には、自分たちは随分と仲良く見えたに違いない。
 違う訳ではないが、そうではないのだが………妬いた?どっちにだ?
「あのさぁ……俺ダシにすんのやめてくんない?」
「敵に回すと厄介そうだから」
「やり方によっては本気でいってたけどな。弁える所は弁えてそうだし」
「そりゃあね。潰されるのはこまるしセンパイは怖いなぁ」
 ああ、そう。芸歴だけはこちらの方が上だった。
 自分の頭を未だポンポンと撫でている男は、基本的に文句のつけようが無い。
 無いがしかし、目的に対して手段を選ばないところがある事を薄々感づいている。見たままの優等生ではないらしい、もう明らかに。
 緩んでる?絞めて行かないとね、等とにこにこ両頬を押さえて何を絞めに行くというのか。
 一応自分が過保護にしてきた責任もあるだろうが、純粋培養に近い妹も問題だ、しかし、この目の前の経験値に溢れてそうなのも嫌だなと思う……自分は歳相応に耳年増なだけである……軽い気持ちで手を出されるなら、あらゆる手を使ってはばんでやったけれど、幼い頃から培っている他人を見る目には自信がある……あるから、否、ちょっと始めに邪魔しといた方がよかっただろうか。
「それじゃあ、撮影頑張って」
「はーい!ソコソコのトコで手打って返してよねー」
ひらひらを手を振って向けられた背に溜息が出た。
「質の悪いのに本気で気に居られると、なんかちょっと不憫だよな」

 完璧超人が、敵が鉄壁過ぎて日に日に余裕が無くなってゆく姿を観察するのも割と楽しい。








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 何番煎じって感じですが。ふと思いついて。
 双子だったら、影ちゃんも直ちゃんも無理なくできるよねと思っただけデス
 オチも何も考えて無かった
 雪ちゃんはモデルさんりせちーは声優陽介はジャ●系のアイドルだよなとぼんやりと思ってはいます。