【標的205】respect
さあ カウントダウンを はじめよう
未来の可能性なんてものは、本当は未知数で計測できるものではない。
たとえば、今一歩を踏み出そうとしているこの脚を左から歩みだすか、右か…そんな些細なことで変わってしまうと、小さな小さな仮定も完全に否定できはしないのだ。
一つの道を選ぶとき、そのとき己が持っていた万にも億にも達する可能性を全て殺す行為なのだと、いったいどれほどの人間が考えるのか。
しかし、その全てをささげてもいいと思えるものを持っている事は、幸福なのだと思う。
そんなものの数など、それこそ人の数だけあろうものだろうけれど、たった一つをこの手に残すために今の一瞬を迷わずに掴み取れる自分は確かに不幸ではない。
5
そもそも時間の流れなど干渉してよいものであるはずもなく
すべきものでもない。
それでもそうせざるを得なかった自分たちを、哂うのはやはり、結局のところ自分たちなのだろう。
今のところ全て予定調和。
寸分の狂いもないとは云えないが、誤差などはじめから予測してある。
4
「君のおかげでスケジュールにも狂いが出たしね」
幻騎士、と言ったか。
敵の怪訝そうな顔を、見ながら気づかれない程度に喉でククッと笑う。
口惜しいことこの上ない。
ボックスはこの手にあるのに。思う存分闘えないというのは、なんと口惜しい。
棘で擦った頬の傷は、薄く皮膚を傷つけたのみでもう血は止まっている。
しかし、残り少ないとはいえもう少し時間はある。これ以上相手の戦力を殺ぐのも、自分の為といえどおもしろくはないと考える。
いや、こういった手合いは精神的に攻めておいても効果はあるだろう。
3
多少、傷付けさせてやらねばならないか―――。
2
『せっかく綺麗な顔なのに、傷なんか作らないでください!治癒力人並み外れてるって言っても後残ったら、俺悲しいですよ!!』
自分だってその甘い顔に傷を作っておきながら、腰に手を当てて雲雀を責めた声がよみがえる。
1
君のせいだろう?
まったく人使いの荒い。
こちらで、徹底的に働かせておきながら、まだ何かと動けと言う。
全て終わったら、何で返してもらおうか?
ふふっと、口元に場に不釣合いな穏やかな笑みが浮かぶ。
count 0
――――残したボックスを高く高く放り投げた
視界いっぱいに球体の空を写す。
まさか、大空はこんなものじゃない。
そしてその空の一助であらんことを己に課した雲もまた。
―――まかせたよ
そして 未来を 嘲笑え