「不条理だよね…」

読んでいた雑誌をソファに放り投げた雲雀が零した言葉に、向かいに座って宿題を片付けていた綱吉は首をひねった。
時間は放課後。 生徒から押収した週刊漫画雑誌は、だいたい1週間、次の刊が出るまで応接室にある。 そろそろ最終下校時間になろうとしている。
部活で残っている生徒も下校せねばならない時間だ。 どうして綱吉も残っているのかというと、勿論この風紀委員長を待っているからだった。
下校後の構内の見回りを終えてから、二人で帰宅。 この所珍しくなくなった日常。 時計はもうすぐ長身が真上に届こうとしている。
午後六時。並盛中学の最終下校時間である。

夏季はまだ日が高いから、そんな実感もないのだが本日最期のチャイムが鳴り響いている。 見回りにと腰を上げた雲雀を、見上げて「いってらっしゃい」と声を掛ける寸前だった。
雲雀がその発言をしたのは。


「―――は?不条理?」

成績もよくなければ、勿論語彙も多くはない綱吉であるが、ことその手の言葉は知っていた。 今彼が強いられている生活こそ不条理極まりない。
半眼で首をかしげたまま、手元を探った。

――――不条理を全身で体現する人間が何を言うのか

「何?その顔」

大層顔を歪めた綱吉に、雲雀は大方彼が何を考えているのかあたりをつけた。
客観的にみれば真実に違いないが、雲雀本人に言わせれば失礼な話である。 悪いのは  群れる  弱い  草食動物 なのであって、雲雀自身ではないのだ。
断じて ついでに最近は、綱吉狙いの輩という該当枠もあるが、これは黙っておこうと思う。

「不条理。@道理に反すること。不合理なこと。A絶望的な状況、限界状態 」

綱吉は淡々と、手元の電子辞書を読み上げた。ここ最近、反応が淡白になってきたな、と他人事のように雲雀はその様子を一種感慨深げに見る。

「で、何が不条理だって言うんですか?」

パタン、と手に持っていた電子辞書を閉じて問う。

「ここ最近の本誌」
「…はい?」
「半年だよ?半年僕出てこないの、Student僕に至ってはもうあんまり数えたくない」
「キャラが本誌にダメだし……って」
「ダメは出てないよ。僕は生物としての性能から他と違うんだから」
「……………」
「話を戻そう。こんなに君のためにやってる僕に対してこの仕打ちは何?」
「そんな事言われても困りますよ!」
「君ほんとに僕のこと、好きなの?」
「っちょ!?それはどんな言い草ですか!!!!!」
「君なんて367日、毎日25時間僕のこと考えててればいい」
「………そんな事いって!あんたは、俺よりヒバードと戯れる方が楽しそうじゃないですか!!」
「10年後の僕は、10年後の君>>>>>鳥>>>ハリネズミ>僕のトンファー≧10年後の君だから仕方ない」
「動物より下?ってゆーか兵器より俺下!!!?知ってたけどね無機物に劣るんですか!俺の方が、あんたの愛情疑いま……ん?」

なんか、ちょっと引っかかるものがある気がする。
いきり立つ綱吉を置いて雲雀は見回りへ出かけようとしている。 言いたい事だけ言って、勝手にも程がある。
しかし

「えーっと。ヒバリさん?」
「君は僕のなんだからさっさと帰ってくればいいんだよ。でないと噛み殺すよ」
「――――――― っそれ」

ピシャリとしまった扉。

「逃げ…た?そんなこと言ったって、なんとか出来る事じゃないんですけど……」

憎まれ口を叩いてみても、赤くなった頬は元に戻らない。
首まで熱くなってきた。 困ったな、どんな顔で会えばいいのか。遅くても30分で見回りなど終わってしまう。 先に帰ったら怒るだろうか?
さらに拗ねるだろうか――――――



自分だけ  だなんて思い上がらないでほしい。 いつだってこんなに想ってる



10年後の雲雀さんしか出てこないので中学生雲雀さんはご立腹らしいです。
ジャンプ様を読んで。