※気まぐれオペレッタ設定
クロームのパパな綱吉さんとママな雲雀さんと保護者の話










「ボンゴレ!今すぐ雲雀恭弥を出しなさい!!」
けたたましい音と共に、ドアを蹴破らんばかりに駆け込んできた霧の守護者’sを、ボンゴレ10代目沢田綱吉はぬるい目で迎えた。
視線の先には、仁王立ちした六道骸。その脇には凪ことクローム髑髏を抱えて。<BR>
訳ありで、骸が日本から拾ってきた幼子は、両手足をぷらぷらとさせながら、きょとんと事態を飲み込めないような顔をしている。


「ソコ。何でもどうでもいいけど、他所でやってね。これ以上俺の部屋壊さないで」

人差し指で目の前に居る人間を指差しながら、綱吉は搾り出すような溜息をついた。
いつものごとく、そこそこにさぼりつつ執務室で仕事中のことであった。
そんな綱吉を尻目に、手伝うでもなく、かといって邪魔するでもなく、手持ちの書類やら本に目を落としていたり、優雅に午眠を貪ってみたりお茶を入れてみたり、恐ろしく自分のペースで好き勝手し放題な雲雀恭弥は、そんな投げ遣りな綱吉を半眼でにらんでいる。
仕方が無いではないか、こんな時この二人を放って置いて何かが壊されなかったためしがない。
花瓶だの、置物だのそんな可愛いものではない、部屋ごと吹き飛ぶクラスの破壊行動だ。
なぜに、ボンゴレの財政が逼迫するときが来るとするなら、それは嵩んだ修繕費のためろうな、などと面白くないことを思ってみたりする。

「ひばりきょうやああああああ!!あなたというひとはぁ!」
「煩いよ。南国フルーツ」
「…だから、他でやれって…」

何かに打ち震えながら、拳を握り締める骸はどうでもいいが、もう片方の腕も無意識に締め上げているためクロームが苦しそうなのが心配だ。

「貴方という人は!信じていたのに、何て事してくれたんですか!?」
「信じてたんだ…」
「煩いですよ。ボンゴレ」

あんた一体何したんだという目をやれば、考えているのか若干首を傾げている雲雀。

「あなた、クロームを連れて行きましたね!!」
「…なんです?」

ぼやっと、のほほん、としている自分以外の人間を他所に骸は今も震えている。
そんな骸を他所に、このくだりで何のことか気づいたらしい雲雀からの衝撃。

「ああ、予防接種」
「わあああああああ!雲雀さんが連れて行ったんですかぁ!!?」

これが驚かずに居られようか。
雲雀恭弥が予防接種!予防接種!?<
流石、風紀と学校を愛する財団の委員長(うわぁ、文字にするとなんて寒気のする事実なんだ)学校行事だとかその辺りの繋がりは、ちゃんと抑えていらっしゃる。
DPTとか云う三種混合だろうか?あと、日本脳炎とか。
しかしこの人が、あの子の手を引いて注射うちにいくとはねぇ。
<
「引いてない。抱えていった」
「そんな訂正いいですよ!しかもよりにもよって蚊のところにですよ、貴方正気ですか!?」
「蚊って…」

ああ、うん。
それは、怒ってもいいんじゃないかな?気持ち、分からんでもないよ?
だってクロームは可愛い女の子だもん。



「そこは、目を瞑っても認められないことがあるんですよ!!僕が連れて行こうと思ってたのに!!!」

突然現れた彼の得物。三叉の槍、灯っているのはインディゴの炎。
そうだろうな、そうなんだろうな。こんなオチのような気がしてた。
いくらシャマルだって、ドンボンゴレと守護者2人を敵に回すようなまねはするまいて。
あの雲雀が直々に連れて行ったらしいのだ、今後も大して心配はいらない気がする。腕が確かなのは折り紙付きだし、裏を返せば女の子には完璧の治療を施してくれるということだ。
陰湿なセクハラをかまして来るような人間でもないし、これから出てくるであろう不届き者を撃退する練習代にはある意味うってつけだ。
下手やっても死なないし、反撃の危険性も無いし。
そうだ!それがいい。
そろそろ護身術程度は教えなければならないかもしれない。

――事態を他所にそんなことを考えてる綱吉は、大概親バカ…否、自称はおじいちゃんなので爺バカか

可愛そうに、クロームはぽかんと口を逆三角形にして瞬きを繰り返している。


「今日こそは、白黒はっきり付けましょうか雲雀おかーさん!!」
「そういうのに連れて行くのは大抵母親の仕事でしょう?初めに役振ってきたのに、よく言うよね。もう喋れない様に噛み殺すけど」



―――パタンッ
骸の脇からクロームを引っ張り出し、諦めたように部屋から出てゆく綱吉。
背後の扉がしまったことなど、2人は知る由も無かった。

「ぼす、おしごと、いいの?」
「うん。あの2人が変わってくれるんだって、だから一緒にお三時にしようね」

にこりと微笑みを幼子に向けながら、これから消失するであろう積んであった書類と、その分たまるであろうこれからの仕事を2人に是が非でも押し付ける事を心に決めて、綱吉は今日のおやつを考えはじめた。


「ぼす!むくろさまとヒバリさんおかーさん仲良しさんだね、いつも2人であそぶもんね……ずるいなぁ」
「大人の遊びは危ないからね。俺と遊ぼう、それで我慢してね?」
「うん、ボスも大好きだからいいよ!でも、大きくなったら、まぜてくれるかなぁ」
「う……うん?」


前言撤回。
仕事代行並びに正座説教のフルコースに決定。

綱吉は思う。
子育てとは、かくも難しいものなのか―――