「ヒバリさん、お茶淹れましたよ」

雲雀恭弥はボンゴレ邸でも数少ない気に入っている場所であるサンルームにいた。
ただ、今日は先客がいたようだ。
日よけに垂らされた紗のドレープに隠れるようにハンモックがつるしてある。

「久しぶりに遊ぼうと思ったのに…」
「最近、少し忙しくてリボーンも碌に寝てないんですよ」

そのハンモックに揺られるのは、無垢な顔に目を見開いて眠る赤子。
一度眠ってしまえば、なかなか起きない。
殺気の欠片でも拾えば、すぐにでも臨戦態勢になれるのだが今は穏やかに時間が流れるだけだ。


「起こしますか?」

大理石の床を革靴を鳴らして歩いてくる綱吉の気配にも、一向に目覚める様子が無い。
けれど、ソレは簡単だ。殺気の欠片でもみせればいい。
テーブルに持ってきたティーセットを置いて、すぐわきに掛ける雲雀に問う。
ポットからカップに注げば、琥珀色の液体の放つ香りがふわりと広がった。

「いや、いいよ……」

雲雀の顔が、柔らかく変化する。
口に入れるものはいろいろとうるさい雲雀のお眼鏡に、この茶葉は叶ったようだ。
嬉しくなって綱吉も微笑んだ。
何時ものものを用意しようかと思ったが、自分が見つけてきたものを喜んでくれたら嬉しいのに、とそんな小さな望みが叶えられて、嬉しい。
カップもそう。
上品な白磁に、ロイヤルブルーを基調として繊細に描かれたシノワズリ。幾何学模様を象る蔓と儚い花、金彩も細密だ。
雲雀の手にあればさぞ絵になるだろうと、一目ぼれして買ってしまった。

「カップも新調してみ…」



――――――――ッう…うう……



そっと、カップとソーサーを手渡そうとしたときである。


「ああ、うん…。いいけど……いいんだけど、このうなされ方は、大丈夫なの?」

ハンモックの赤子は、酷くうなされていた。
掛けているタオルケットも、もうぐっしょりと濡れるほどに。

「ヒバリさんもお疲れですよね……一週間ほどは、この邸夢見悪いかもしれないので、何処かでホテルとった方がいいですよ……」
「君のとこの研究室は碌なもの作らないね」
「すいません」

返す言葉も無い。
久々に顔を出した雲雀といたいと言うのに。どうして、こんな事を口にしなくてはいけないのか。
一昨日の夜に簡易に設置したラボで研究途中の装置が暴走したとか大爆発を起こしたとか……。こんな事もあると、本宅では基本的にそう言った研究開発行為はされないのだが完成度の高さと危険性の低さで、通してしまった。
その書面にサインをしたのは綱吉ではないので、今回責められるいわれはない。

そんなハプニングで、まき散らされた神経作用の霧の炎の残滓が消えて無くなるまで暫くかかる。
肉体的に限界ぎりぎりにまで働いていたのである。無防備に眠っている。
どうやらリボーンは、負の方向に引きずられてしまったらしい。
いい夢見れました!とホクホク艶々している人間もいるが、それがどうして何に作用して変わるのかは、解らない。
この尋常でないうなされ方をしているのがリボーンだというこの現実は本気で、雲雀ですら、引く。

「君は?」
「はい?」
「君は、どうなの?」
「夢も何も、残念ながら満足にここ数日寝てませんよ。漸く休みとれたんで、どうしようかと思ってたんです」

そんな時に雲雀が訪ねてきた。
眠気よりも一緒に居たい、話をしたいという気持ちの方が強くなる。
なるが、リボーンとは違い殺気は無くとも人の気配の多いところではゆっくりと眠れない雲雀である、休養という意味の仮眠ならプロであるから何処でも効果的に眠れるのだろうが、そんな事だけでは身体が持たない。
ここまでの道のりで疲れはたまっているだろう。


「ごちそうさま。それじゃあ、行くよ」
「はい。また来てくださいね、お待ちしてます」

カウチから立ち上がった雲雀は、繊細なカップを優しい手付きでトレイに戻して上着を羽織る。

「何言ってるの?」
「…はい?」

言うが早いか、首を傾げる綱吉の手を取って歩き始める。

「暫く休めるんでしょ?行くよ」

ぽかんと引きずられるように雲雀の後をついていく形だった綱吉の顔が、一瞬この上もなく間抜けたな顔をした後ほころんだ。
嬉しげに、微笑んで。
しっかりと歩き出した綱吉。けれどまだ雲雀の手は離れない。
握り返しても、払われる事はない―――。



「ねえ、ヒバリさん?」


意を決して、言葉を探した。
切ない終わり方はしないんじゃないかと、そう思ってしまうのは直感ではなく願望だろうか?



「……あなたに、言いたい事があるんです」


少しだけ目を見張って、「うん」と雲雀が頷いた。















やがて、紅茶の香りに甘ったるい有害物質を混ぜて、更にまき散らして行った二人




リボーン先生は、未だうなされ続けている………






思い起こせば、我が家の先生苦労生活はここから始まったのかもしれません。