「あの子の告白を聞いた」
「…………」

『出あった頃は怖い人だと思ってて、近くに行くのも怖くて、竦みあがって壊れそうな心臓抱えてどうしていいか分からなくて逃げ回って……。でも何時も視線で姿を探してたんだって気付いた時にはもう遅かった、怖いだけの人じゃ無くなってしまった、そうならよかったのに、そうならこんな想い抱えずに済んだのに。怖くて怖くてたまらない心が、捕まって深みから抜け出せなくなるのが分かってたからなんて、気付きたくなかった。知ってしまえばもう戻れないのに、戦闘にだけ、強い人間と闘う事にだけ興味を示す人なら良かった、でも助けてくれるから、俺が膝を吐いた時何時も目の前にあの人の背中があるから、庇われてるんだなんて錯覚する!綺麗だけど冷たい印象の顔を、時々びっくりするくらい優しくして笑ってくれるから、髪を触れてくれるから!だから期待なんて虚しいだけの事してしまう……ずっと、ずっと忘れたかった。忘れてしまいたい!けど持て余した想いは消えるどころか大きくなるばかりで、どうしていいか分からない……こんな気持ちで他の人とどうこうなんてなれるわけない、なれたらいいと思うけど無理だって無駄な努力して思い知った。好きなんです好きなんです好きなんです―――雲雀さんが!!』


きっと一字一句違わないだろうセリフを、さらっと雲雀は暗唱した。

何が問題だ、けっこうグッとくる告白じゃないか何が不満だ雲雀恭弥。
不満どころか、むしろ願ったり叶ったり、美味しすぎるじゃないか。望まない結婚話から御姫様を攫った(いや実際は逃亡の道連れに雲雀が攫われたと言えなくもない状況ではあった)ナイト的ポジションで既にポイント加算なのに、なんのボーナスか?
ボーナス特典ではなく、恋愛シュミレーションならクリアー。
ギャルゲーならオタノシミフラグ全開じゃねーか?
リボーンはそんな目を向ける。
雲雀の目はちょっと遠くを見た。

「うん、美味しかった。夢かなんかかと思う程度には、初めて自分の頬を抓ってみたよ、痛かった」

雲雀恭弥ともあろう人間が、現実を飲み込むのに数秒もかかってしまった―――。




「―――――――っつ…。いった……危ないじゃないですか何やってくれんですか!!」

事態を租借して、飲み込んで、消化した後。
雲雀は思い切りブレーキを蹴り倒すように踏んだ。
けっこうなスピードからの急ブレーキなんて正気の沙汰ではない、ないがそんな事に構っていられる状況だろうか?
かかるGは半端ではない。内臓が潰れるかと思った。
ダッシュボードに上体を打ちつけそうになった綱吉が喚く。
そんな事はどうでもいい。

「―――つ、なよし…」

目を丸くして、見遣れば、何故か彼はパチパチと瞬きをして「あれ、なんかほんと……リアル」
こんな状況で冷静な声を出している綱吉が何かおかしいなんて、そんなことに思考を回す余裕なんてあるはずがない。
欲しくてたまらなかったものが、今まさに自分に差し出されている。
このリアルが心臓を止めそうな衝撃を生んでいた。
なんだか怪訝そうな綱吉の顔ですら、この上もなく愛おしい。

不覚にも微かに震える指を、そっと伸ばした――――同じ想いを返すために。
そうしなくてはいけない
決して手放さないために。
何者にも奪われないために。

柔らかく表情を崩し、そして頬を染めて、彼は微笑むだろう―――。




―――――――バシッ

「ちょっと!もう一回練習させてください、今のはちょっと勢いがありすぎたから…引かれたヤダ」



練習?

え、あれ??
えええ?

このシーンで好きな男の手を払いのけるこれは、どんなKYプレイか?
空に浮いた手が、虚しい。
けれどもどうしていいか解らない。

「つ……」
「煩い!俺の夢なら、死ぬ気で俺に付き合え!!!」





―――――――――――――――――――――――――え?






  ……回想終了……






「………君、その顔は何か知ってるね」

先ほどの気配から一変、本気の殺気だ。
しかも、怨むつらみ怨念がこれでもかとブレンドされているため、この凶悪さったら無い。
ソレはそうだろう、足掛け●年夜も眠れないほどの想いを傾けてきた相手に、一週間、一週間もだ!
告白シチュエーション四十八手、加えて裏四十八手あらゆる言葉、ありとあらゆる行動で好意を嫌と言うほど示されるのに、何故か強気にもう一回コールをされるためワンステップ進めない。
そこで押し切ればいいものを、好奇心ででまたもう一回。

初めのうちは楽しかった。この世の春だ。
だがしかし、何度も言うが一週間である。ゲームのリピートではないのだ

いい加減、いくら雲雀と言えど気がふれる――


ちょっと記憶にある事が引っかかったリボーン先生は、思いついたという仕草を出してしまった。
ふっと、空気を震わせただけである。
ジリリと後ずさった。廃人手前のくせに、そこはやはり雲雀恭弥、見逃してはくれない。
レッドランプがピコーンピコーンと点滅している。
これは危険だ。

「いや、その研究班が人の意識に作用する匣兵器の応用装置を研究していてだな・・・・こう」

強固な外郭で覆われた柔らかい深層の意識に手を触れる事ができれば、精神医学方面は飛躍的に伸びるだろうし、悪用するにしてもその用途は数限りない。
どんなに強靭な肉体を持ってたも、剥き出しの意識は生まれたての雛よりも弱い。
自我そのものであり、本能である。
そこに手を伸ばす研究である。

結果を言うならば、失敗だ。
意識などという変幻自在で難解なものに機械は対応しきれなかった。
あらゆる方法を持ってして侵入者を拒絶する。
それを突破する事は難しい、幻術のエキスパートであり、他人の夢を渡る事のできる骸ですら不可能だろうと言う。核を見つけたとしても、それを本物だと判断する事からして困難だ。
そんな訳で、最終的に出来上がったのは当初の目的とはかけ離れたものになった。

思い通りの夢が見れる。

そんな残念な感じのお気楽なものになってしまった。
不眠治療にとか、安眠効果!お目覚めすっきり、気分爽快!!!


「そんな感じ☆」
「………へえ」

地を這う地獄よりの声。
赤ん坊姿ならともかく、大人の姿で可愛い事を言ってもなんの効果があるのだろうか。
いや、ない。

「それで、その効果が続いてると思ってるツナは、夢と現実がミックスジュース………」

お前に告白の予行演習なんて、可愛いじゃねーか☆にくいね色男!


「でも、さ……諸悪の根源は、キミだよね」


キラッと可愛らしくしてみたが、当然雲雀がこれで同行できるはずがない。
グッと、握られた手首。
おかしい、こんな状況を打破できないリボーンではない。
ひらりとかわし、ぐるっとかき回し、そして蝶のように逃げる。
それが何時も世界をの楽しむリボーン先生の生き方だ。
だが、なんだこの小僧風情に気圧されるこの現実は何だ?
背中を伝う、伝うと言うよりも流れ落ちる滝のような嫌な汗。
こんな事でどうする!
人形のように白い雲雀の顔、いやに紅い口がニヤリと哂った―――。




「あーーーーーーーーー!やっぱりここだったんですね、うん。やっぱりヒバリさんはここ好きだよなぁ……んー、でも俺の意識か…まあいいや」

昏倒していたはずの、ボス。
再登場。

「あれ……なんでリボーンがいるの?そして、ヒバリさんに手を掴まれ………夢でも忌々しいなお前!!」
「……」

ボスは未だドリームドリーマー。


「趣向を変えて、ギャラリーがあるのも新しいかと思って」
「――!?おい、ヒバリおまッ」

まさかの公開プレイ宣言。
ぎょっとして振り返る。ギリギリと締め付けるようにリボーンの手首から手を離さないヒバリは、これ以上も無いほど怪しくそれはもうぞっとするような顔で、うっそりと笑んだ。

この男は、特攻覚悟であった



「ああ!なるほど、あらゆる状況に対応しないとね!!流石ヒバリさん!!俺の妄想だけど」
「さあ、始めようか?」
「―――あ…、う、はい」

からかうだけなら大層面白いが、この拷問は勘弁してくれ。
手塩にかけた弟子の頬が薄い桃色に染まってゆくのを、必死に手首にかかった指をほどこうともがきながら見た。
どうした事か、セメントか何かで固められたように動かない。
びくともしない。幾ら相手が雲雀と言えども、リボーンとて今は大人なのだ。
一方的な力負けなどあり得ない。

ついでに、いつの間にか声まで出なくなっている。
















あ、あれ?