「…ねえ、もう諦めようよ……」
『ヤダ。デキル!』


―――無理だ。絶対に


「帰ろう?ビスケットあげるから…」
『デキル!ヒバードデキル!!!』
「ああ、もう…仕方がないなぁ。実力行使で……」


・・・・・・・・・・・・・・ん?




「ぬ、抜けな…」

『イエスアイキャン!イエスアイキャン!!ヒバードデキル!!』


とうとう駄々をこねだした鳥に大きく息をついた。
あれ、何で俺この子の面倒みてるんだろう?






 * * * * * * * * * * * * * * *







「雲雀さん大変申し上げづらいのですが」
「何?そんな床にはいつくばって」

沢田綱吉は、いわゆる土下座というやつで雲雀恭弥の目の前に畏まっていた。
デスクに掛けて草壁から上がってきた報告書各種に目を通していた雲雀は、少なからず怪訝な目を綱吉にやる。
こんな風に彼が雲雀に頼みごとをする内容など、大概ろくでもない。


――しかし、何で土下座?


もう少し、こう…
可愛いお願い方法を覚えてくれるなら、便宜くらいはかってやらないでもないのだが
何と罵られようと、雲雀だってまだ十年とちょっとしか生きていない健全な青少年なのである。


「で、何?いい加減要件、言いなよ」
「いや・・・えっと・・・・あの」
「何?」


声がつんけんするのも致し方ないと思ってほしい。
何度も言うが、雲雀だって健全な青少年、中学生男子である。
一応想いは通じているはずの相手に、土下座なんてされて面白いはずもない


「じゃあ。学校の設備の破壊許可くださ―――っひ」
「は?」

流石に額による皺に、気持の悪い汗が背中を流れてゆくのを感じながら目をそらして、ほんのちょこーっとフェンス切らしてもらえるだけで、いいんです。と消えそうな声で言う。
そして、そっとポケットを探る。


「――それ、何?」
「本人の名誉を守るために、用意してみました」

黄門様の印籠のように取り出したそれに、雲雀の額の皺がまた増える。
一応聞いてください、となおも目を逸らしながら話しだす。




「ある、雀が一羽、ちょこちょことグラウンドに遊んでいました。彼は裏山へ帰ろうとグラウンドとの境界の、フェンスを飛び越えればいいのに、チョンと飛び跳ねて潜ってゆきました」
「…なんか、見えてきたね」
「それを、コレが見ていました」

雲雀は目を覆いたくなった。
綱吉の手の中にあるテニスボール。その大きさと色に何かデジャヴを感じる。

「テニスボールは、思いました『いえす、あいきゃん』そして、こう頭からフェンスの網目へ……」
「わかった。わかったから……」

一度大きく息を吐いた雲雀は、諦めて工具箱を取り出した。



「君ひとりで、切れる?」
「たぶん。一応、あの子にもプライドがあるようなので」
「……そう」

ようやく合わせたお互いの視線。
二人とも妙に生ぬるい目をしている。



「じゃあ、行ってきます」
「終わったら。一緒に帰ろうか」
「はい」


今日も何事もなく並盛の陽は暮れてゆく。









「俺、おやつあげすぎましたか?」
「この子はもう絶対に野生には帰れない」

ぐったりしたテニスボールのような鳥を、ポケットに入れて歩く夕暮れの街。