鳴り終るチャイムと共に、騒がしくなる廊下。
開け放した窓から、梅雨時期特有の生ぬるい風が吹き込み、カーテンを揺らす。
先ほど報告を終え出て行った草壁から後、誰もこの部屋の扉を叩く者はいない。
いつもどおり、独りきりの応接室。
各教室、廊下、そして校庭からも聞こえてくる生徒たちの声に、ソファに深く掛け目を伏せていた雲雀は、時間にあたりをつけた。
群れる草食動物は嫌いだが、だからといってその喧騒まで嫌悪しているわけではない。
静寂は好ましい。
けれど彼の、彼の為だけのその時間を邪魔されるのが気に食わないだけで。

しかし、これが雲雀の愛してやまない学校でもあるのだ。


―――パタパタ

不意に、それまで物音ひとつなかった部屋に響く音。
微かな音を立てて羽ばたく黄色い鳥。
常に神経は起きているといえども、雲雀が午睡を貪っている間は決してその邪魔をしないその小さな鳥は、いつもこの時間に帰ってくる。

「…おかえり」
『ヒバリッ!』

飼っているわけではないけれど。
いつの間にか懐かれて、いつの間にか、肩に乗っているのが当たり前になってしまった。
懐く人間なら、もっと他にいいのが居るだろうに……。


『ヒバリ、ヒバリ!!』

窓辺にちょこんと乗って、外と、こちら側を交互に見ている鳥。
首がどのあたりにあるのか分からないが、胴は外を向いたまま顔を忙しなく此方と外に動かしながら、呼んでいる。



「……………君は、何がしたいのかな」

いつまで経ってもその行動をやめない鳥に、小さく息をついて仕方が無いとばかりに立ち上がって、自分も揺れるカーテンに手をかけた。
この鳥が、呼んでいる理由を、雲雀は分かっている。


「まったく目ざといよね」


応接室から見下ろすと、ちょうど下斜め45度の辺りに植え込みがある。
そこを竹箒で掃いている3数人の生徒。
ここの掃除の割り当ては、彼らのクラス。
そして、今週は彼らの当番。
ここからでは、会話までは聞こえない。
けれど



―――無性に……


『ムレテル!ツナヨシ、ムレテル!!』
「そうだね」
『カミコロス?ヒバリッ、カミコロス!!』


いつの間にか肩に移動してきた小鳥が、言葉の内容をどれほど理解しているのかは分からないが、楽しげにさえずる。
今更、この程度のこと放っておいたって構わないはずだった。
この時間帯なら、もっと噛み殺し甲斐のありそうな群が校舎裏か体育館の裏に、お約束のようにいるはずだ。

けれど。
けれど―――。


「…いこうか」

誰にともなく呟いて、踵を返すした。






彼らの姿に、無性に心がざわめくのは
焦燥にも似た苛立ちを抱くのは


まだ形も知らないいびつなものが心にあるから。